連城三紀彦『戻り川心中』ネタバレ考察|結末のトリックと”因果関係の逆転”を解説

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連城三紀彦「戻り川心中」ネタバレ考察アイキャッチ

※本記事は連城三紀彦の短編小説『戻り川心中』および映画『もどり川』(1983年)のネタバレを含みます。未読・未見の方はご注意ください。あらすじ・トリック・結末に関する内容を含みますので、あらかじめご了承のうえお読みください。

心中事件を二度も引き起こした天才歌人の生涯——その裏に隠されていたのは、誰も想像しなかった”逆転した因果関係”でした。直木賞作家・連城三紀彦の代表作『戻り川心中』は、1980年の発表から40年以上経った今もなお読み継がれ、1983年には萩原健一主演で映画化もされた傑作ミステリーです。この記事では、あらすじから【ネタバレ】結末のトリック、なぜこの作品が今も語り継がれるのかまで、複数の情報源をもとに徹底解説します。花葬シリーズ他4編の紹介や、映画版との違い、著者の文体的な特徴にも触れているので、これから読む方にも、既に読んだ上で理解を深めたい方にも役立つ内容を目指しています。

「大正時代の文芸ミステリー」と聞くと、なんとなく敷居が高く感じるかもしれませんが、本作の核にあるのは「信じていたものが実は違った」という、ジャンルを問わず多くのミステリー・サスペンス作品に共通する普遍的な面白さです。当サイトで紹介してきた伊藤潤二の短編ホラーや、真梨幸子のイヤミス作品とはまた違う、文芸ミステリーならではの緻密な仕掛けをぜひ味わってみてください。

目次

連城三紀彦『戻り川心中』とは何か——直木賞作家が遺した”花葬シリーズ”

大正時代の和装の歌人をイメージしたイラスト

まずは作品・作家の基本情報を整理します。

初出 『小説現代』1980年4月号
受賞 日本推理作家協会賞(短編部門)
収録短編集 『戻り川心中』(藤の香・桔梗の宿・桐の柩・白蓮の寺・戻り川心中の5編収録)
映画化 『もどり川』(1983年、神代辰巳監督、萩原健一主演)

著者の連城三紀彦は1948年愛知県生まれ、早稲田大学卒業というエリートコースを歩みながら、大衆小説の世界に活躍の場を求めた作家です。1978年に『変調二人羽織』で「幻影城」新人賞に入選しデビューし、1980年発表の『戻り川心中』で日本推理作家協会賞を、1984年には『宵待草夜情』で吉川英治文学新人賞、同年『恋文』で直木賞を受賞した実力派作家です(Wikipedia)。2013年10月に65歳で死去し、2014年には日本ミステリー文学大賞特別賞を没後受賞しています。

“花葬シリーズ”という連作の構造

『戻り川心中』が収録されている短編集は、いずれも花の名を冠したタイトルを持つ連作——通称”花葬シリーズ”の一部です。すべての作品に共通するのは、大正〜昭和初期を舞台にした男女の情念と、鮮やかなどんでん返しの組み合わせ。1話ごとに独立した物語でありながら、シリーズを通して「人間の情念の裏に隠された真実」というテーマが一貫しています。伊藤潤二の短編集のように、1話ずつ深掘りできる構造は、当サイトのネタバレ考察とも相性の良い形式です。

なぜ”戻り川心中”という表題が選ばれたのか

短編集全体のタイトルに表題作「戻り川心中」が選ばれているのは、この作品が花葬シリーズの中でも最高傑作と評価されているためです。日本推理作家協会賞という、ミステリー作家にとって権威ある賞を短編部門で受賞したことも、その完成度の高さを裏付けています。三洋堂書店の紹介文では「日本ミステリ史上、最巧にして最麗の名花」とまで評されており、単なる一短編ではなく、日本のミステリー史に残る作品として位置づけられていることが分かります。

あらすじ:大正の天才歌人・苑田岳葉と二つの心中未遂事件

川辺で心中を図る男女をイメージしたイラスト

物語の主人公は、大正期に活躍した天才歌人・苑田岳葉。彼は生涯で二度、心中未遂事件を起こしています。一度目は桂木文緒という女性と桂川で、二度目は依田朱子という女性と千代が浦で。そしていずれも岳葉だけが生き残り、最終的に34歳という若さで自ら命を絶ちました。

物語は、岳葉の生涯を追う語り手(小説家)の視点で進みます。二つの心中事件を調査するうちに、語り手は次第に不自然な点に気づき始めます——本当にこれは”情熱のあまり”起きた事件だったのか、と。

一度目の心中——桂木文緒との桂川

岳葉が最初に心中を図った相手は、桂木文緒という女性でした。舞台は桂川。この事件によって岳葉は世間の注目を集め、歌人としての名声を高めるきっかけとなります。表面的には、若き歌人が身分違いの恋に身を焦がし、死を選ぶほどの情熱を燃やした——という、いかにも大正ロマン的な悲恋として語られます。

二度目の心中——依田朱子との千代が浦

一度目の事件から時を経て、岳葉は依田朱子という別の女性と、今度は千代が浦で再び心中を図ります。二度も同じような事件を起こしながら、岳葉自身は奇跡的に生き延びる——という展開が繰り返されることに、語り手は違和感を募らせていきます。この”二度目”の存在こそが、物語終盤の衝撃的な真相へと繋がる重要な伏線になっています。

ポイント:本作は単なる心中事件の顛末記ではありません。「歌人が心中を経験して名歌集を生んだ」という一見美しい物語の”裏側”を暴いていく構成が、本作最大の読みどころです。

【ネタバレ】結末を徹底解説——心中は”歌集のための狂言”だった

仕組まれた演出の舞台裏をイメージしたイラスト

ここからは核心的なネタバレに触れます。本作最大の衝撃は、心中事件そのものが、歌集を完成させるために岳葉自身が仕組んだ”演出”だったという真相です。

通常、現実の出来事があり、それを言葉(歌)で描写する、という順序で創作は進みます。しかし苑田岳葉は、この因果関係を逆転させていました。彼は先に歌集の完成形——理想的な言葉の連なり——を頭の中に描き、その言葉にふさわしい”現実の事件”を、後から作り出していたのです。つまり、心中事件は情熱の結果ではなく、歌集のために必要な”素材”として周到に演出されたものでした。

なぜ岳葉はここまでする必要があったのか

岳葉には、生まれながらにして女性を真に愛せないという内面の”欠陥”がありました。デビュー当初の作品は「情念の欠如」と酷評されており、この評価を覆すために、彼は自らの人生に”本物の劇的事件”を組み込む必要に迫られていたのです。加えて、師の妻・村上琴江への当て付けという、個人的な復讐心も背景にあったことが示唆されています。愛のための心中に見えた事件が、実は歌人としての名声と、師への意趣返しのために計算し尽くされた狂言だった——という真相が、読者に強烈などんでん返しをもたらします。

「情念の欠如」という評価が生んだ皮肉

この真相が特に痛烈なのは、岳葉が本来持っていなかったはずの”情念”を、歌集という言葉の世界でだけは完璧に表現できていたという逆説にあります。現実の彼は女性を真に愛せない人物でありながら、心中事件という”素材”を意図的に作り出すことで、誰よりも情熱的な恋愛歌人として世に認められる——この構造そのものが、連城三紀彦の作品に通底する「言葉と現実の主従関係の逆転」というテーマを象徴しています。

芸術家が実体験を昇華させて作品を生み出すのではなく、理想の作品像から逆算して”実体験”そのものを作り出す——このアイデアは、創作論としても示唆に富んでいます。多くの芸術家伝説が「壮絶な人生経験が名作を生んだ」と語られがちな中で、本作はその因果関係そのものに疑問符を突きつける、メタ的な視点を持った作品でもあるのです。

2人の女性はどうなったのか

心中の”演出”に付き合わされた桂木文緒・依田朱子という2人の女性の視点に立てば、この真相はさらに重い意味を持ちます。彼女たちにとっては命を賭けた本気の情死行だったはずのものが、岳葉にとっては歌集のための計算された筋書きの一部に過ぎなかった——という非対称性こそが、本作を単なるトリックものではなく、深い読後感を残す文芸作品たらしめている要素だと言えるでしょう。

この「因果関係の逆転」というトリックの構図は、複数の書評・考察記事で共通して指摘されている本作の核です。連城三紀彦の作品全般に見られる作風として、「Aという動機でBが起きた」ではなく「Bが必要だったからAという動機が作られた」という語り口が特徴的だと評されています。

叙述トリックの構造を分析——「因果関係の逆転」とは

逆転する矢印をイメージした抽象イラスト

『戻り川心中』が高く評価されている最大の理由は、単なる犯人当てではなく、”物語の語られ方そのもの”に仕掛けがある点です。読者は最初、「情熱的な歌人が心中未遂という壮絶な体験を経て、名歌集を生み出した」という感動的な物語として本作を読み進めます。ところが終盤、この前提そのものが覆され、「歌集のために心中が演出された」という真逆の構図が明らかになります。

本格ミステリーとしての完成度

この手法は、単なる「意外な犯人」を当てるタイプの本格ミステリーとは一線を画します。むしろ、物語全体の”意味”が読者の中で反転するという、文学的などんでん返しに近い仕掛けです。情熱的な純愛物語だと信じて読んでいたものが、実は極めて論理的かつ打算的に組み立てられた”狂言”だったと分かった瞬間、それまでの美しい描写がすべて別の意味を帯びて見えてくる——この読書体験こそが、本作が”日本ミステリ史上、最巧にして最麗”と評される所以です。

「情熱的に見えて、実は論理的」という逆説の魅力

実際に本作を読んだ読者・評論家による複数の書評が指摘しているように、本作は「情熱の物語のように見えて、実はきわめて論理的に組み立てられている」という二重構造を持っています。この論理性こそが、感情の激しさをより際立たせる効果を生んでいます。読者は最初、大正ロマン的な純愛悲劇として物語に感情移入しますが、真相が明かされた瞬間、その感情移入そのものが岳葉の計算のうちだったことに気づかされます。この”読者すらも欺かれる”仕掛けの精巧さが、発表から40年以上経った今も本作が高く評価され続けている理由です。

この「読者を欺く」という手法は、探偵役や作中の登場人物だけでなく、物語の外側にいる読者自身をもミスリードの対象に含めるという点で、単なる犯人当てクイズを超えた挑戦だと言えます。読み終えた後、もう一度冒頭から読み返すと、何気なく読み飛ばしていた描写の端々に、実はすべての伏線が最初から提示されていたことに気づくはずです。

語り手(小説家)の役割

物語を進行させる語り手=小説家の存在も、本作の構造上重要な役割を果たしています。読者は語り手と同じ目線で岳葉の生涯を追い、同じタイミングで違和感に気づき、同じタイミングで真相にたどり着く——という設計になっており、この”読者と語り手の歩調を揃える”手法が、どんでん返しの衝撃を最大化しています。

連城三紀彦の文体と美学——「幻影城」出身作家が評価される理由

美しい文字が連なる原稿用紙をイメージしたイラスト

連城三紀彦は、1975年に創刊されたミステリー専門誌「幻影城」の新人賞出身の作家です。1977年、『変調二人羽織』で第3回幻影城新人賞(小説部門)を受賞し、1978年1月号の「幻影城」誌上でデビューしました。「幻影城」からは連城のほかにも、泡坂妻夫・栗本薫・田中芳樹といった、後に日本のエンターテインメント小説界を牽引する作家たちが多数輩出されています。この”幻影城世代”に共通するのは、単なるトリックの奇抜さだけでなく、文章そのものの美しさ・巧みさを重視する作風です。

講談社の紹介記事では、連城三紀彦が『時計館の殺人』の著者・綾辻行人や、伊坂幸太郎といった後進の人気作家たちに大きな影響を与えたと評されています。本格ミステリーの論理性と、文芸作品としての情感を両立させるという連城三紀彦のスタイルは、世代を超えて多くの作家に受け継がれてきたと言えるでしょう。

連城三紀彦の文体は、しばしば「美文」と評されます。花の名を冠したタイトル、大正〜昭和初期という時代設定、そして登場人物たちの繊細な心理描写——これらが組み合わさることで、単なる謎解きを超えた、文学作品としての完成度を実現しています。『戻り川心中』というタイトル自体、川の流れが戻ることはないという自然の摂理と、”戻れない”人間の情念を重ね合わせた、詩的な響きを持つ表現です。

トリックと美文の両立という難しさ

ミステリー作品において、複雑なトリックを成立させることと、文章としての美しさを両立させることは、決して簡単ではありません。多くの本格ミステリーは、論理的な整合性を優先するあまり、無味乾燥な説明文に陥りがちです。しかし連城三紀彦は、この2つを高い次元で融合させることに成功しており、それこそが「日本ミステリ史上、最巧にして最麗」という評価に繋がっています。

この”美文とトリックの両立”というスタイルは、後年の作品にも一貫しています。1984年に直木賞を受賞した『恋文』も、手紙という形式を用いた叙情的な文体と、ミステリー的などんでん返しを組み合わせた作品として知られています。『戻り川心中』で確立されたスタイルが、その後のキャリアを通じて磨き上げられていったことがうかがえます。

映画『もどり川』(1983・神代辰巳監督)を解説

昭和レトロな映画フィルムをイメージしたイラスト

公開年 1983年
監督 神代辰巳
脚本 荒井晴彦
主演 萩原健一

原作発表から3年後に映画化された『もどり川』は、大正時代を舞台に、歌人・苑田岳葉が病身の妻を顧みず、遊廓通いや師匠の妻との不倫、深窓の令嬢・文緒との許されぬ恋愛など、女性遍歴を重ねながら、文緒との心中の失敗を題材にした歌集を出版して歌壇に認められていく過程を描いています(Wikipedia)。監督の神代辰巳は情念的な人間ドラマを得意とする映像作家で、原作が持つ”美しさと計算高さが同居する”世界観を映像化するには適任だったと言えるでしょう。

主演の萩原健一(ショーケン)は、俳優として数々の問題作・話題作に主演してきた実力派。天才性と冷酷さを併せ持つ岳葉というキャラクターを、どのように演じたかも本作の見どころのひとつです。

原作と映画版の違い

映画版のあらすじには「病身の妻を顧みず、遊廓通い、師匠の妻との不倫」といった、岳葉の女性遍歴がより具体的に描かれていることが分かっています。原作小説が”語り手による調査”という構成を取っているのに対し、映画版はより直接的に岳葉自身の生きざまを描写する構成になっていると考えられます。荒井晴彦による脚本は、原作の文学的なトリック構造を、映像作品としてどう再構築したのかという点でも興味深い比較対象です。

神代辰巳監督という作家性

監督の神代辰巳は、1970〜80年代の日本映画界で独自の作家性を確立した監督として知られています。人間の欲望や情念を赤裸々に描く作風で高く評価されており、『戻り川心中』が持つ「美しさと打算が同居する」というテーマを映像化する上で、これ以上ない人選だったと言えるでしょう。

花葬シリーズ他4編(藤の香・桔梗の宿・桐の柩・白蓮の寺)も一挙紹介

複数の花をモチーフにした短編集をイメージしたイラスト

短編集『戻り川心中』には、表題作以外に4編が収録されています。いずれも花の名を冠したタイトルで、大正〜昭和初期を舞台にした情念のミステリーという共通項を持っています。

作品名 特徴
藤の香 花葬シリーズの一編。情念渦巻く人間関係を描く
桔梗の宿 若き探偵が、遊里で見つかった男の死体が握っていた白い花に興味を持つところから始まる物語
桐の柩 花葬シリーズの一編
白蓮の寺 花葬シリーズの一編

正直に申告すると、表題作以外の4編について、結末まで詳細に踏み込んだ考察記事は今回の調査範囲では十分に見つけられませんでした。「桔梗の宿」の導入部(遊里で見つかった死体が握る白い花の謎)は確認できましたが、結末の詳細は情報源が薄く、本記事では扱っていません。花葬シリーズ全体に興味を持たれた方は、ぜひ原作でこの続きを確かめてみてください。

花葬シリーズが持つ共通の美学

タイトルにすべて花の名前が使われているのは偶然ではありません。花は美しさと儚さ、そして枯れ・散るという”終わり”を内包する存在です。連城三紀彦は、この花のイメージを、登場人物たちの情念や人生の結末と重ね合わせる形で、シリーズ全体を貫く美学として用いています。表題作「戻り川心中」における”歌集のための演出された心中”というテーマも、この花葬シリーズの美意識——美しいものの裏には必ず何かが隠されている、という世界観——の延長線上にあると言えるでしょう。

より広い”花葬シリーズ”との関係

調査の過程で、「花葬シリーズ」という括りには、単行本『戻り川心中』収録の5編に加えて、「花緋文字」「夕萩心中」「夜の自画像」といった作品も含まれることが分かりました。これらは別の短編集・アンソロジーに収録されている可能性があり、単行本『戻り川心中』だけでシリーズの全貌を把握できるわけではない点には注意が必要です。この点も含めて、シリーズ全体を俯瞰した記事は今後の課題としたいと思います。

なぜ連城作品は40年以上映像化され続けるのか——『隠れ菊』3度の映像化から読む人気の理由

繰り返し上映されるスクリーンをイメージしたイラスト

連城三紀彦の作品群が持つ息の長さを示す好例が、1996年に柴田錬三郎賞を受賞した『隠れ菊』です。この作品は、1996年フジテレビ系『ゆずれない夜』・2016年NHK BSプレミアム『隠れ菊』・2018年テレビ朝日系『あなたには渡さない』と、実に3度にわたってテレビドラマ化されています。同じ原作が20年以上の間隔を空けて繰り返し映像化されるのは、それだけ普遍的な魅力を持つ物語だという証拠です。

ポイント:『戻り川心中』自体の再映像化は1983年の映画以降確認できていませんが、同じ著者の別作品がこれだけ繰り返し映像化されている実績は、連城三紀彦という作家全体への根強い需要を裏付ける材料と言えるでしょう。

連城三紀彦の作品は、大手キュレーションメディアでの本格的な考察記事がまだ少なく、扱っているのはファン運営のデータベースサイトや個人の書評ブログが中心です。直木賞作家という高い評価を得ながら、ネット上での”深掘り考察”という点ではまだ開拓の余地が大きい作家だと言えます。

『隠れ菊』はどんな物語か

3度も映像化されている『隠れ菊』は、1996年に柴田錬三郎賞を受賞した作品です。柴田錬三郎賞は、エンターテインメント性の高い作品に贈られる権威ある文学賞で、『戻り川心中』が示す文学的などんでん返しの技術に加えて、より幅広い読者層に訴求するエンターテインメント性を連城三紀彦が兼ね備えていたことを示しています。フジテレビ・NHK・テレビ朝日と、それぞれ異なる放送局・時代で映像化されているのも興味深い点で、局や時代を問わず通用する普遍的な物語構造を持っていることの証明と言えるでしょう。

晩年〜没後の評価

連城三紀彦は2013年10月に65歳で死去しましたが、翌2014年には日本ミステリー文学大賞特別賞を没後受賞しています。生前から高い評価を得ていた作家が、没後さらにその功績を称えられるというのは、作品そのものが持つ普遍的な価値を裏付けるものです。デビューから40年以上が経過した今も、『戻り川心中』をはじめとする代表作が版を重ねて刊行され続けていることも、この作家の評価の高さを物語っています。

どこで読めるか

文庫本を手に取る様子をイメージしたイラスト

『戻り川心中』は光文社文庫・講談社文庫など複数の版元から刊行されており、書店・電子書籍ストアで入手可能です(版元によって収録作品の組み合わせが異なる場合があるため、購入前に目次を確認することをおすすめします)。映画『もどり川』は配信サービスでの取り扱い状況が変動するため、視聴を希望する場合は各サービスの最新の配信状況を確認することをおすすめします。

短編ミステリーとして手軽に読める分量でありながら、読後に長く記憶に残る読書体験を提供してくれる作品です。文庫本1冊で花葬シリーズ5編すべてを読めるため、コストパフォーマンスの面でもおすすめしやすい一冊と言えます。

近年は電子書籍化も進んでおり、スマートフォンやタブレットで手軽に読める環境が整っています。大正時代という時代設定に馴染みがなくても、文章自体は現代の読者にも読みやすいよう工夫されているため、古典的な文芸作品に抵抗がある方でも挑戦しやすい一冊です。通勤・通学の隙間時間で読み切れる分量なので、読書習慣を作りたい方の入り口としてもおすすめできます。

同じく”裏に隠された真相”を扱うミステリーとしては、当サイトで紹介した真梨幸子『5人のジュンコ』『ミステリー・アリーナ』もおすすめです。「見えていた物語の意味が反転する」という読書体験を味わいたい方には、『三度目の殺人』もあわせてチェックしてみてください。

よくある質問(FAQ)

Q. 『戻り川心中』の結末はどうなりますか?
A. 苑田岳葉が起こした二度の心中未遂事件が、実は歌集を完成させるために自ら仕組んだ演出だったことが明らかになります。愛のための事件ではなく、名声と師への当て付けのために計算された狂言だった、という真相です。
Q. 『戻り川心中』は実写化されていますか?
A. 1983年に神代辰巳監督・萩原健一主演で『もどり川』として映画化されています。
Q. 花葬シリーズは他に何がありますか?
A. 短編集『戻り川心中』には藤の香・桔梗の宿・桐の柩・白蓮の寺・戻り川心中の5編が収録されています。
Q. 連城三紀彦の代表作は他にありますか?
A. 1984年直木賞受賞作『恋文』、柴田錬三郎賞受賞作『隠れ菊』(3度映像化)などが代表作として知られています。
Q. 連城三紀彦はどんな作家ですか?
A. 1948年愛知県生まれ、早稲田大学卒業。1978年デビュー、1984年に直木賞を受賞した実力派ミステリー作家です。2013年に65歳で死去しています。
Q. 『もどり川』はどこで観られますか?
A. 配信サービスでの取り扱いは変動するため、Apple TV等の配信状況を都度ご確認ください。DVD・パッケージでの入手も選択肢のひとつです。
Q. どのくらいのボリュームで読めますか?
A. 表題作は短編小説のため、1話あたり数十分程度で読み切れるボリュームです。文庫本1冊に花葬シリーズ5編が収録されているため、まとめて読むことも可能です。
Q. ミステリー初心者でも楽しめますか?
A. 本格的な犯人当てというよりも、物語全体の”意味”が反転する文学的などんでん返しが魅力の作品なので、ミステリーに馴染みがない方でも小説として十分に楽しめます。
Q. 綾辻行人や伊坂幸太郎との関係は?
A. 直接の師弟関係ではありませんが、講談社の紹介記事では連城三紀彦が後進の人気作家たちに大きな影響を与えたと評されています。本格ミステリーの論理性と文芸的な情感を両立させるスタイルが、世代を超えて受け継がれてきたと考えられます。
Q. タイトルの「戻り川」にはどんな意味がありますか?
A. 一度流れた川は戻らないという自然の摂理と、”戻れない”人間の情念を重ね合わせた、詩的な意味合いを持つ表現だと考えられます。結末を知った上でタイトルを見返すと、また違った意味が浮かび上がってきます。

まとめ

連城三紀彦『戻り川心中』は、「情熱の結果として心中事件が起きた」という一見美しい物語の前提を、終盤で鮮やかに覆す傑作ミステリーです。天才歌人・苑田岳葉が仕組んだ”因果関係の逆転”というトリックは、40年以上経った今読んでも色褪せない完成度を持っています。日本推理作家協会賞という権威ある賞を短編部門で受賞したという事実が、その完成度の高さを何よりも雄弁に物語っています。1983年の映画化以降、大きな再映像化はないものの、同じ著者の『隠れ菊』が3度も映像化されている実績からも分かるように、連城三紀彦という作家そのものへの根強い需要は今も続いています。

直木賞作家でありながら、ネット上での深掘り考察がまだ少ないという状況は、この作品を今読み直す価値を裏付けているとも言えるでしょう。ぜひ表題作だけでなく、花葬シリーズの他の作品にも触れてみてください。

本記事で紹介した内容を整理すると、①心中事件は情熱の結果ではなく歌集完成のための演出だった②因果関係の逆転という叙述トリックが本作最大の仕掛け③1983年に映画化され萩原健一が主演した④著者は直木賞・柴田錬三郎賞受賞の実力派で没後も評価が続いている、という4点が押さえるべきポイントです。

短編でありながらこれだけの読みごたえを持つ作品は、決して多くありません。花の名を冠したタイトルの美しさに惹かれた方も、トリックの精巧さに興味を持たれた方も、ぜひ一度手に取ってその”逆転”を体験してみてください。読み終えた後、きっとタイトルの意味そのものが、最初に読んだときとは違って見えてくるはずです。

『戻り川心中』は文庫・電子書籍で入手可能

連城三紀彦のプロフィールを見る

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